電波暗箱(シールド箱)を作る

WeMos D1を手に入れて、喜び勇んで遊ぼうと思っていたけれど。よく見たら技適取得してないじゃん。多分だけれど、電源投入と同時に電波も出ちゃうタイプだろうから、このままだと合法的に日本人が日本国内でこれを使うのは難しいって事か。

でも、せっかく手に入れたのに。動作確認すらせずに終わりというのも勿体ない。と考えていて思い出したのが、大学生時代に使用していた電波暗室。あそこならある意味で何でもOKだった。電波暗室は個人で持つのは無理としても、電波暗箱で電波が漏れないという点だけにフォーカスしたものを作成すれば、実験できるのではなかろうか。確証はないけど。と、いろいろ調べてみることに。

ほかの人はどうしてるの?

自分自身、理学系の人間ではなく工学系の人間なので。誰かが問題をクリアしていてそれが利用できるのであれば、その理屈自体はブラックボックスでも利用したい。目的は、その理屈を調べることではなく、理屈を使ってやりたいことを無事完了させたいだけだから。って考え方。ということは、ほかの人のやってることをググって調べてみるのが一番早道。

で調べてみた結果。うーん、成功したってずばりのものはないみたい。

同じようなことをを考えた方。法務を生業にしている方でしょうか。同じようなことにぶつかって、同じようなことを実施して失敗。という例が一番近いかな?そのサイトはこちら。【電波法に準拠した電波暗室を自分で作ることはできるのか(失敗作の例)】。こちらでは「RSSIの変化量とシールドの減衰量は意味合い的には同じでは無いと思われますが」と書いていますが、たぶん、意味合い的には同じで、単に測定値の意味合いのみの問題でしょう。アンテナの利得を求める場合の手法としては、TXのアンテナとRXの1/2λの単純なアンテナを一定距離に置き、その受信信号の強度から測るわけで、RSSI(Received Signal Strength Indicator”)は受信した信号強度だとすれば考え方としては同じ。ただ、受信アンテナの構造やらもあるわけで、そこで出てくる値を単純に考えられないだけかと思う。要するに数字としての意味合いは相対的に比較したときにのみ有効で、それ単体では絶対的な意味で価値を持たないということかな?ただ、シールドによる減衰とだけ考えれば、比率で考えるわけで、十分に同等と考えていいのではないかと思う。

ストレートにぴったり合っているわけではないけれど、成功した例としては、【スタパ齋藤のコレに凝りました「コレ凝り!」 アルミホイルの電波遮断能力ってスゴいな~!】漢スタパ齋藤の情報ですね。アルミホイルでホイル焼きよろしく包み込むといい感じで遮蔽されるという話。お菓子の缶では上手くいかない。蓋をする形の缶でうまくいっていない点からして、スチールでは遮蔽できないのだろう。これが銅だったらわからないけれど。とりあえず、アルミならうまくいきそうである。

まぁ、ともかくいえるのは…ずばりの事例がない以上、自分で実験してみないことにはどうにもならないということか。

どうやって合法的にこの機器で遊ぶか

ネットでそれとなく、情報収集にいそしむこと数分。面白い資料に行きつきます。経団連が出している 規制改革要望 研究開発業務における技術基準適合証明未取得機器の利用という資料が内閣府のサイトに転がっています。内容はまさに、いまぶつかっているような内容そのものが国内企業の技術開発に影響を与えてますよ。って話が出ており、それについて総務省に問い合わせた旨が記載されています。そこには

研究開発業務において活用を検討する新規技術を搭載した通信機器・通信モジュールに関して、技術基準適合証明を取得しておらずとも海外より輸入および研究開発への利用を許容すべきである。

という、経団連からの規制改革要望に対して、

【A】 実験試験局免許を取得することで、技適マークのない機器も研究開発目的で使用することが可能。
【B】 電波暗室等の設備内のみで使用する場合は、無線局免許(実験試験局免許など)を取得せずに使用することが可能。
【C】 特定実験試験局制度を活用することで、申請から免許までの処理期間を大幅に短縮することが可能。

と、現行法で対応可能との回答をしています。ということは、海外の技適未取得機器であっても、電波暗室等の設備内でいじっている分には法には触れない。実用性はないにしろ、個人の技術的興味の充足レベルなら簡単に対応できることが確認できた。なるほど。

電波法に準拠した電波暗室環境を作る

では、合法的な電波暗室ってのはどんなものなのか。それが興味の対象となります。さらに調べてみると、

総務省 電波利用ホームページ|電波監視|微弱無線局の規定について良くある質問(FAQ)を見ていると、

質問4 電波暗室以外の、例えば遮へい能力のある電波暗箱のようなものは試験設備として認められるのか。
回答4 電波暗室に限らず、平成18年総務省告示第173号の要件を満足する試験設備であれば、本件の対象となります。

とあり、別にサイズに限らずで条件さえクリアすれば問題ないとのこと。なので、大学にあったあんな部屋ではなく、機器が収まるレベルの箱でも十分であるということになる。

さて、電波法に準拠させるということは、ここに出ている平成18年総務省告示第173号の要件に適合させればよいと。この要件、難しいことは書いてなく、

金属遮へい体により収容され、その内部で使用される無線設備の使用周波数における漏えい電波の電界強度を四〇デシベル以上減衰させること

金属で遮蔽すること。40デシベル減衰させること。だけが要件。その40デシベルも実験で使用する周波数で考えればよいということ。 1/10,000にしろというのは、なかなかすごいような気もするけれど。

じゃ、この条件で作って、だれがどのように条件を満たしているか確認すればいいのか。これも先ほど見た総務省 電波利用ホームページ|電波監視|微弱無線局の規定について良くある質問(FAQ)に記載があり

質問2 試験設備が平成18年総務省告示第173号の要件を満たしているかどうかということについては、あらかじめ国による確認等を要するのか。
回答2 試験設備が告示の要件を満たしているか否かの確認は、電波暗室を利用する者が自ら行うこととしており、あらかじめ国による確認を受ける必要はありません。

なんてことなく、設置者が担保しなさい。ということだけになっている模様。これなら、自作への越えられないハードルはなさそうである。

試作してみる

何はともあれ試作。試作段階での条件としては

  • ESP-8266EXの出す電波を対象とする(IEEE 802.11n)
  • WeMos D1が入るサイズとする
  • 電波暗室を作るには材料入手が難しいので、シールド構造で我慢する

電波暗室と言ってしまうと、外界に電波が漏れ出ない・外界から電波が漏れ来ないことだけではなく、無反響であることも求められるわけだけれど、今回は機器が出すノイズを計測するわけでもなく、ともかく電波法違反でなければいいということでシールドルームをお手本に物事を考えることにします。

で、構造躯体とする容器…お手頃サイズということで、周りを見渡して…ちょうど見つかったのがこれ。

アコレで買った朝食用の味のり。プラスティックの容器で、上部はスクリューで閉まるタイプ。そのスクリューもユルユルな感じで、閉まっているんだかいないんだか程度にしか閉まらないやつ。この具合がちょうどよさそう。

この容器に強力タイプのスプレーのりをふりかけ、アルミホイルで巻きます。巻く際のポイントは、底側はひだを付けるように織り込み、隙間なく埋める。最後の部分はクシャクシャっとして、力業でつぶす。上側は、折り返して容器内に巻き込む。はみ出した部分を切り取るのではなく、織り込んで織り込んでまとめる感じにします。

実験にはNETGEAR WiFi LTE モバイルルーター AirCard AC785-100JPSを使ってみます。技適取得機器なので、実験失敗でもいたくないはず。測定は設定したAirCardを作った電波暗箱内に入れて、目の前にあるPCからWiFi Analyzerで電波の強度を確認。作業用の机の関係で AirCard から PCのアンテナ までは50cmほどで実験。

ひとまず箱に入れない状態での出力状況。2.4GHzが-76dBm、5GHzが-57dBmと出ています。

これを自作の箱に入れると…2.4GHzが範囲外、5GHzが-86dBmと出ています。この段階で-57dBmから-86dBmですので、おおよそで1/1,000程度までは減衰していることになります。1/10,000までは程度遠く感じてしまう数字には見えます。うーん、うまく遮蔽されてませんねぇ。これではESP-8266EXで実験OKとはなかなか言いにくい。そこで、ケースに巻いていたアルミホイルをさらにもう一周、スプレーのりで同様に張り付けて補強します。

補強したら、なんと、両方ともに範囲外。-100dBmが計測範囲(だったはず)なので、おおむね1/10,000程度は確保できている計算か。2.4GHz帯側は-76dBmから圏外(-100dBm)となるとこちらは400/10,000程度?測定限界なので、この値、もしくはこれ以上ということになるのかな?

これはなかなか遮蔽してますね。これなら。と、手持ちのiPhone SEをこのケースに入れて、他の電話からコール、メール送信。3G/LTEともに通信不能。データは到達せず、音声も圏外にいる旨の音声が流れてくる状態。Wi-Fiだけではなく、3G/LTEに関しても一定の遮蔽を行えている模様。これなら実用的に使えるかな?

実際に、この箱をPCなどのアンテナ近傍まで移動したり、もう少し離してみたりと位置を変えても値変わらず。

保険のために、もう一周分アルミを巻いて外装部分完了。ラフな計測器ではあるけれど、40dBの減衰は少なくとも確保している状況でもあり、これなら、ESP-8266EXの実験にも耐えうる感じかな?

この状況の上で内部が金属むき出しなので、内装の作業も実施する必要があるけれど、こっちは入れる機器自体に外装すればいいので、省略。

結論

いろいろな人がこの手の電波暗箱(シールドボックス)を試したという情報はネット上に転がっているけれど。成功したという情報が見つからなかったので、気になってはいたけれど。やってみてわかったのは、

  • 遮蔽に使う金属は「アルミ」がよさそう
  • 多少の隙間であっても、周波数帯が周波数帯なので、漏れが生じる
  • アルミホイルもメーカーや値段によって厚みが大幅に違う

ということ。アルミを1枚張ってと簡単に言っても、どのメーカーのどの製品かによって、厚みが異なることになる。厚みによっても減衰量が異なる訳なので、必要に応じて重ね張りが必要となるのかもしれない。あるサイトでは、アルミで1回巻でスマホをくるんだだけで遮蔽完了という記事があったが、どう考えても私の買ったアルミホイルでは遮蔽できなかった。多分、安物を買ったので薄かったのだろうと思われる。

ともかく、ちゃんとやれば簡単な遮蔽箱は、その辺にある材料で実現可能だってのはよく分かった気がする。

続編はこちらへ

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